2015年06月10日

2015年05月25日

Call my ***(クロヴィタ)

「そろそろか――。んじゃま、行こうぜ」
 いつものように茶目っ気のある笑顔とともに。煌魔城、最上層で灰の騎士一行を待っている時だった。何度となく交わしてきたやりとりが、これで最期になる気がして。
「ねえ、クロ――」
 そう呼びかけて、声を掛けるのを止めた。
 この少年の、この背中に、自分は何をしてあげられると言うのだろう。
 魔女? 使徒? そんな肩書きが一体何の役に立つと言うのだろう。今の彼に必要なものは、そんなものではない。
 彼はいま何を見つめているのか。対となる灰の騎士の存在だろうか。それともこの帝国の、世界の、行く末――。だとしたら、
 そこに彼自身の姿は、在るのだろうか。

(たとえそれが赦されない行いだとしても)
(彼に少しでも暖かい未来を)
posted by 麗楽 at 00:26| 落書き、小説

take a nap(閃の軌跡、トヴァサラ)

 澄んだ空気は室内に入っても変わらなかった。見慣れたカウンターに、見慣れた机とソファ。後者の方に見慣れた姿を見つけて溜息をつく。
「ちょっとトヴァル。またそんな所で寝て……」
 机の上にはこれもいつもと同じく、導力器とそれを構成するパーツが広げられていた。それらをいじっていたであろう本人は、机の上で夢の中。膝の上には毛布がかかっているようだが、上半身はいつものコートだけだ。この気候のせいなのか、どういう訳か支部に大量に配置されている毛布をここぞとばかりにもう一つ引っ張り出して来て、寒そうな彼の背中にもかけてやった。
「ん……、サラ」
 名前を呼ばれ、起きたのかと思い顔を覗きこんだが、彼は一層気持ち良さそうな寝息をたてるばかりのようだった。仕方ないわね、などと保護者のような気分で元気の良い金髪を撫でる。
「飲み過ぎるなよ……」
 彼の夢の中ではその立場は逆転しているようだった。飲んだくれる自分の世話でもしてくれているのか。しかしそんなことをしてくれている内は飲んだうちに入らない。次回はもっと飲ませてやらないと、など真逆の企みをしてから再度金髪を撫でる。思いの外ふわふわしている弾力が心地良かった。

「……サラ?」
 目を覚ますと目の前によく知った顔がどアップであったものだから、その瞬間は心臓が飛び出しそうになったものだ。加えて、触れている部分がぽかぽかと暖まるくらいの近い距離と二人を包む毛布のシチュエーション。自分はいつこんな都合の良さそうな世界に来たのかと周りを見渡すも、そこはよくよく見知った自分の所属するギルド、レグラム支部の建物の中だった。
「ん……、トヴァル」
 夢の中の彼女はこれまたいい感じに自分の夢を見ているようだった。仕方ないなと思いながら毛布をかけ直してやる。
「もっと飲みなさーい」
 彼女は夢の中でも、自分に酒盛りをしているようだ。現実世界と同じ夢のようで苦笑いする。自分に酒盛りをしている間に、寝不足になりがちな生活なのだから一分一秒でも眠ればいいのに。そうすればこんなふうに居眠りをすることもなくなるのではと考えたところで、自分も導力器いじりに夢中でこんなふうに居眠りをしてしまったのだと思いだして、人のことは言えないと思考を止める。好きなことは寝る時間を削ってでもやりたいその気持ちはとてもとてもよくわかる。
 何気なく鮮やかなマゼンタを撫でる。キッチリ纏められたところから飛び出ている後れ毛がやけに可愛らしく見えて、指先を沿わす。敏感な首筋に触れてしまったのか少し色っぽい吐息を出されてどきりとしたところでサラが目を覚ました。金色に湛えられた光はいつ見ても綺麗だ。

「あらトヴァル。起きたのね」
「ああ。これ、かけてくれたんだろ。サンキューな」
「ふふ、御礼に今度また飲みに付き合いなさい」
「いつも付き合ってるだろうが」
「あら、そうだったかしらね?」
 同じ毛布に包まれふわりふわり。暖かさが心地良くてまた居眠りしそうになる。居心地の良い、温度だ。
 いつだってそう、何も言わなくても、大切なことはすべてわかっていた。気付けば隣にある温度。間違いのない感触がそれを証明する。
 それでも多分、俺たちは、あたしたちは、どうしたって、一人で歩かなければならないときだってある。だけど隣にはきっと。
「ほら、トヴァル。そろそろ行くわよ!」
「はいはい、言われなくても」
 迷いを捨てるように毛布を剥ぎ取り、澄んだ空気を切って進む彼女の背を追い掛けた。
posted by 麗楽 at 00:11| 落書き、小説

2015年03月09日

Call you later(閃の軌跡、クロサラ)

クロウ×サラ 閃Tクロウ編入後〜閃U終章ED

***

 放課後、何気なく立ち寄ったZ組の教室にクロウは居た。特になにか用事があったわけでもない。ただぼうっと、これからのことを考えていた。
 ――じきに、ここともお別れとなるだろう。卒業とは違った形で、他でもない、自分自身の手で、この場所を奪うことになる。
 そのとき、共に過ごしてきた仲間たち――トワや、ジョルジュや、ゼリカ。同じ2年の仲間や、このZ組のメンバーは、どんな顔をするだろうか。

「はあ、なんであんたがここに居るのよ」
 半ば呆れた声でそう言いながら教室に入ってきたのは、担任のサラだった。
「生徒が教室に居ちゃいけねーのかよ」
「そうじゃなくて。あんたね、単位が足りないくせに授業中居眠りするわ、授業抜け出すわ、いい加減にしなさいよ。放課後にここに来たって意味ないんだから」
「大丈夫、なんとかなるって」
「なんとかなってないからこのクラスにきたんでしょーが。ったくもう、教頭に怒られるあたしの身にもなってよね」
 そう言いながら教卓の下を漁るサラのほうは、いつものように生徒名簿を置き忘れたらしかった。1年前と変わらないその光景に、ふっと笑みがこぼれる。
「くく、だけど2年もあんたの世話になれて光栄だぜ。腕は確かだし、美人だしな」
「はあ、褒めても単位はあげないわよ」
「つか、あんたもしょっちゅう寝坊するわで怒られてんじゃないのか? つくづく教官らしくないっつうか」
「ぐ……わ、悪かったわね。」
 クロウは知っている。サラが時に、寝る時間もなく夜遅くまで起きているのは、何も飲んでいるからではない。この「Z組」のカリキュラムに試行錯誤したり、あるいは教官職についたものの、いまだに手伝いをしている遊撃士関連の調べ物などで忙しくしているのだ。だらしなさそうに見えて、実は見えないところでは誰よりも頑張っている。
 ――ある意味、俺と似ているのかもな。
 クロウがそうした情報を知っているのは、同じ寮に住んでいるからだけではない。サラが自分のことを知る以前から、自分はサラのことを知っているし、それこそ彼女のことは重要人物としてマークしていた。
 ――紫電。
 そう呼ばれる、帝国でも指折りの実力者。A級遊撃士であることはこの学院に入る前、帝国解放戦線を立ち上げ情報収集に乗り出した当時から知っていた。その事実は今やZ組メンバーにも周知されているが、彼女の過去はそれだけではない。遊撃士になる前は北の猟兵の実力者としても活躍していた。彼女の我流ながら、どこまでも綺麗で無駄のなく鋭い技の数々は、そこで習得された戦闘技術だ。
 そんなことを自分に知られているということをサラは知らないはずだ。いや、知っていては困る。トールズ士官学院のクロウ・アームブラストではなく、旧ジュライ市国出身、クロウ・アームブラスト――またの名を帝国解放戦線リーダー、Cであることは、ここの誰にも絶対に気付かれてはならない事実だ。

「ほらほら、あんたも早く帰んなさいな」
 差し込んだ夕日が二人を照らす。鮮やかなオレンジを浴びて、いつの間にか自分の席の近くまで来ていたサラが、一層綺麗に見えた。
「なあ、単位をくれとは言わねーから、教えてくれたりしないのかよ?」
「あんたに教えられることなんかないわよ。座学を教えるのなんて勘弁だし、少なくとも実践実技については充分合格点だしね。あんた、センスあるわよ」
 そう言われて少し心臓が跳ねた。彼女には押し殺している実力を見破られているんじゃないか、という考えが頭をよぎる。
「どうせなら銃以外の獲物も試してみたら? なんとなく、上手く扱えそうな気がするわよ」
 クロウの本来の獲物は銃ではなく、双刃剣。勿論最終的にはオズボーン暗殺ということも視野に入れているため、特に遠距離ライフルの訓練は欠かしていない。しかし双刃剣は遠くから撃つだけの銃よりも、接近して掃討することが出来、扱いは難しいものの使いこなせれば防御もこなせ攻撃力も高い獲物だ。ここ数年で色々な獲物を試してきたがこれが一番、自分には合っている。
「はは、じゃ今度……、いや。今すぐ教えてくれや」
「え、な、ちょ、ちょっと……っ!?」
 夕日に照らされた影が近づいて、重なる。ふわりといい香りが舞って、思ったよりもずっと細く、しなやかな身体が腕の中に収まった。
「こ、こらっ。なにヘンな気起こしてるのよ!」
「嫌なら逃げればいいだろうに。あんたも面白いな」
「に、逃げる暇なんてなかったってば」
「つか今も。抵抗すればいいだろ」
「はあ。あのねえ、なんだか元気がないみたいだったから心配してるのに。ここで振りほどいたら酷い教官になっちゃうでしょ? ま、まあ……こんなことされるとはさすがに思わなかったけど」
 抱きしめられたまま、自分より小さな背丈から頭を撫でてくれる。こんな感覚、いったい何年ぶりだろうか。
「話せることなら相談しなさい。別にあたしでなくてもいいから。トワたちも、Z組のメンバーも、あんたに力を貸してくれるはずよ」
 故郷を捨てて以来、いつだって自分の傍にあったのは武器や戦うための仲間でしかなかった。
 だとしたらサラや、トワや、Z組の奴らは、いったいどうしてこんなに自分に良くしてくれるのだろう。
「ふふ、みんなあんたのことが好きなんだから。あ、変な意味じゃないわよ。あたしにとっても大切な教え子だしね」
「……さんきゅ」
 かろうじて搾り出した声が震えていた。悲しいわけではない。とうの昔、祖父を亡くした時から自分で決めていたことだ。たとえこの先何を失うことになっても、絶対にオズボーンに一矢報いるのだと。そして、彼という怪物が居なかった時代の平穏を取り戻すのだと。
 ――仮初だ。
 ここにあるすべて、士官学院でのクロウ・アームブラストという姿は、これから始まる作戦のための、ただのフェイクでしかない。
 だから自分には、悲しむ資格などないのだ。ただただあるのは、これからすべてを自分の手で壊さなければならないという事実と、それからほんの少しだけの……。
 考えることが嫌になって、思考を目の前の事実だけに戻した。
「抱きしめられてるついでに、この先もしてみるか?」
「ったく、調子に乗ってるとビンタするわよ」 
「くく、わりと本気なんだけどな。……もう少しだけ、こうさせてくれ」
「……わかったわ。少しだけよ。それと、ここが教室ってこと、忘れないでよね? 誰か来たらマズイんだから」
「部屋で続きをしてもいいけどな?」
「っ、からかわないで」
 もう誰も苦しまないように。もう誰も悲しまないように。
 そのためには、この温もりも、仲間たちとの時間も、すべて手放さなければいけなくなる時が必ず来る。
 ゆっくりと過ぎていくこんな時間は、もう取り戻せなくなる。
 その時あんたは……どんな顔をしてるんだろうな。
 今は見えないその表情の代わりに、今だけはこの温もりを離さないように、腕に力を込めた。




 あれから半年。

 霞む視界の先に、あんたの姿が見える。
 いつも凛々しく自分たちの前に、教官として立ち続けてくれていたその人の姿は、今だけはどこか頼りなく見える。

 ――そんな顔すんな、美人なのに台無しだぜ。
 ――あんたは立派な俺らの……俺の教官だった。

 どんな言葉も喉の奥で掻き消され、もう届くことはなかった。
 最期に延ばした手の行く先は、きっと自分の辿り着くことの出来なかった未来だったのだろう。

 惜しむように、愛おしむように。
 最期の時間は過ぎていく。

 願わくばこの先、自分のような過ちを犯す奴がいないように。

 ゆっくりと、目を閉じた。
posted by 麗楽 at 17:36| 落書き、小説